「おいしいココアの作り方」と環境思考

今年TVアニメ化もされた、小市民シリーズ「春期限定いちごタルト事件」(米澤穂信 著) の中に「おいしいココアの作り方」という話がある。

TVアニメ第2話にこの話が出てくるので、ご覧になった方は以下の話についての説明謎の答えは読み飛ばしていただいて構わない。

※上記の原作小説、TVアニメ第2話をご覧になっていない方にとって、本記事はネタバレになるのでご注意ください。

話についての説明

高校の同級生である堂島くんの家に招かれた主人公の小鳩くんと小佐内さんは、堂島くんが作った「おいしいココア」を振る舞われる。

堂島くんによると「おいしいココアの作り方」とは次のようなもの。

  1. カップにココアパウダーを投入後、熱々の牛乳を控えめに注ぎ、ココアパウダーがペースト状になるようスプーンでかき混ぜる。
  2. 同カップに熱々の牛乳を飲みたい分量になるまで注ぐ 。
  3. 同カップに砂糖を適量加え、スプーンでよくかき混ぜる。

こうして、カップのふち近くまで満たされた3杯の「おいしいココア」が作られたのだが、どうやら次に挙げる材料と道具以外が使われた形跡がない。

  • ココアパウダー
  • パック入り牛乳
  • 砂糖
  • カップ 3つ
  • スプーン 1つ
  • 電子レンジ

これを謎とみた堂島くんの姉、知里さんと、小鳩くん、小佐内さんが共にこの謎(堂島くんが実際にどうやって「おいしいココア」を作ったのか)を解き明かす。

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謎の答え

堂島くんは「おいしいココアの作り方」で必要となる熱々の牛乳を用意するため、電子レンジでパック入り牛乳を温めた。

環境思考の使い手がいたら

この話の中では、あれこれ手順を考え試行錯誤した末に、ようやく、冷蔵庫にしまい込まれた事後のパック入り牛乳に注意が向き、これを触ってみて即、謎の答えも判明という流れであった。

話の中で謎の解明を難しくしているのは、「電子レンジでパック入り牛乳を温める人などいない」「電子レンジではパック入り牛乳を温められない」といった思い込みである。この思い込みに気づく上で、冷蔵庫にしまい込まれた事後のパック入り牛乳を触ってみることは効果てきめんだった。

環境思考では、環境との相互作用を積極的に利用して考える。もしも知里さん、小鳩くん、小佐内さんの中に一人でも環境思考の使い手がいたら、早いうちに冷蔵庫の中のパック入り牛乳に触れることになり即解決、話は全く盛り上がらなかっただろう。だから知里さん、小鳩くん、小佐内さんの中に環境思考の使い手はいなかった。いてはいけなかった。推理ものとしては。

話の中で、もし堂島くんが電子レンジのそばに事後のパック入り牛乳を放置したままだったとしたらどうだろうか?(冷蔵庫に戻すのが面倒で、冷蔵庫に戻し忘れて、あるいは熱を冷ますため)その場合、謎の解明が容易になるかどうか以前に、謎解き自体が始まらない可能性が高い。堂島くんが電子レンジの中に事後のパック入り牛乳を放置したままだった場合については言うまでもない。

もし堂島くんが冷庫に事後のパック入り牛乳をしまい込んでいたならどうだろうか?

もし堂島くんがパック入り牛乳を全て使い切り、牛乳パックはゴミ箱の中だったとしたらどうだろうか?

環境思考における環境とは、頭の中以外の全てである。 環境思考とは、環境との相互作用を積極的に利用して考えることである。 ...